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偽文士日碌


 最初であるからして即ち、平均的日常を書くことにしよう。
 居間の電球が切れたので、例によっての着流しで近くの電器店へ買
いに行く。完全球体のでかい電球だ。
 その足で耳鼻科へ行き、医師と話をする。医師はオペラが好きで、
時おりでかい音でワグナーなどを聴いていたりする。だからオペラシ
ティでの「フリン伝習録」にもご招待した。ご自身もチェロを弾き、
たまには休み時間に診察室で弾いたりもするという。この問答をした
のは一昨年のことだったが、こんな小さい診察室でと驚き、見まわし
たがそれらしいものはどこにもない。
「これです」と言って、ロッカーから出して見せてくれたのはチェロ
の骸骨、つまり骨組みだけのスケルトン・チェロというもの。エレキ・
チェロであり、いい音が出るらしい。
 今回は最近のこの原宿近辺の地上げについて嘆きあう。医院の向か
いのビルが解体され、工事の騒音が大変だったらしい。耳の診察に支
障を来す以前に、震動で待合室の客が恐怖に顫えたと言う。
 血圧を計ってもらい、処方箋をいただく。歳をとるにつれて服むべ
き薬の数が増える。血圧を下げるノルバスク、血液がさらさらになる
脳梗塞予防のバイアスピリン、このバイアスピリンを服むと胃が悪く
なると訴えたため今回からはガスター・テンが増えた。それに便秘薬
の酸化マグネシウム。
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