トップへ戻る

偽文士日碌

八月十九日(火):41-42

つけたという故事に倣ったのではないか、などと思う。
 ところでこの賞はベテランに与える賞なので、失礼にあたるから選
に漏れた候補作はいっさい発表しないため、選後評でも授賞式でも、
そしてこの日碌でも触れるわけにはいかない。「東京島」はおれと池
澤氏が○で、井上氏と川上さんが△という高得点。この時点で授賞は
決まっていたようなものだが、一応すべての作品を×の多い作品から
順に委員がひとりずつ、ひとつずつ、ていねいに評価していく。井上
氏は「東京島」をよい作品としながらも欠点をいくつか指摘したが、
これについてはおれも池澤氏も同意見で、その欠点を認めた上での評
価であった。川上さんはわれわれの誰も気づかなかった結末近くの隠
れたトリックを指摘。本当にトリックなのかと疑いながらも男三人は
感服。「東京島」授賞と決まり、担当社員が桐野さんに電話で報告。
桐野さんお喜びであったとのこと。司会の大和取締役からは、授賞式
における選考過程のスピーチを依頼された。井上さんは選後評に欠点
をすべて書くと言っているから、スピーチ、やりにくいなあ。
 そのあと会食。この会食はいつも愉しく、面白い話の競演会の趣き
を呈することになる。同席の女性社員ふたりが笑い転げるのでますま
す興に乗って盛りあがるのだ。「東京島」がらみで、選考委員全員で
孤島ものを合作しないかという話も出た。話に夢中になって、ついつ
い芋焼酎をロックで三杯も飲んでしまう。八時半帰宅。
 選評は「中央公論」十一月号に載ります。
ページ番号: 41 42

「次のページへ」や、「前のページへ」をクリックすると、ページがめくれます。