外をやらされ、マックのCMで夏目漱石のパロディ、マック夏目とい
うのをやらされ、芝居の方では蜷川幸雄演出のチェーホフ「かもめ」
に「作家だから作家の役ができるだろう」という乱暴なキャスティン
グでトリゴーリンという大役をやらされ、ご存じのようにこの役はま
あ文豪というよりは流行作家に近い役どころではあったが、その後は
「通販生活」や「天下一品」や「みずほファイナンシャル」などのC
Mで自役自演も含めてやたらに作家の役をやらされ、ふたたび久世ド
ラマ「血脈」で島村抱月をやらされ、映画「欲望」でも作家役を、火
曜サスペンス劇場「箱根湯河原温泉交番」では今出川龍之介という、
パロディめいた文豪の役をやらされている。現実にも文士のパロディ
をやってやろうという発想はこれらの過程の中から生まれてきたもの
であろう。
演じはじめてみるとこの文士という衣装はなかなか着心地がよろし
い。威張ったり我儘を言ったり酔っ払ったりしていてもさほど不自然
には思われないようだし、着流しで近所を歩いているとファッション
の店の前にたむろしているギャルたちが、「あっ。先生だ」「格好い
い」などと言って萬歳をしてくれる。こちらも萬歳を返す。買い物に
行くと商店街の人たちがなんとなく珍重するように愛想よくしてくれ
る。よくぞ作家になりにけり。あの山田詠美も毒性の笑顔で「筒井さ
んって、どうしてそんなに貫録があるんですか」と訊いていたから、
まんざら下手な演技をしているわけではあるまい。そんなこんなでこ
のまま死ぬまでこのスタイルで通すつもりであるから、この日記のタ
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