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偽文士日碌

八月二十日(木):213-214

 いつの間にか朝日の連載は進んで、もう高校時代まで来ちまった。
ケッラアマンの「トンネル」を書き終え、その前のショーペンハウエ
ル「随想録」の原稿と一緒に発送する。世の中は衆院選が近づき、イ
ンフルエンザが流行し、タレントが麻薬をやって逮捕されるなど、何
やかやと騒がしいことである。
 夕刻よりハイヤーの迎えで東京会館へ。谷崎賞の選考会は、パレス
ホテルが改装されるため今年から場所が変る。改装には三年もかかる
そうである。地下にある中華料理の一室に案内された。
 五時過ぎから選考会が始まる。今年は低調である。いい作品がない
のだ。それぞれが○や△をつけた作品のことを、いつもなら×なのだ
がと言いながら、欠点を述べ立てるのがおかしい。おれも唯一△にし
た作品のことを、限りなく×に近い△であると言いながら批判する。
 結局、今年は受賞作なしと決った。今年はやばいなあと思っていた
のだが、予想通りになってしまった。でも谷崎賞、そんなに甘くはな
いぞということで、評価はあがるかもしれない。落した作品をばらす
ことになるので、選評は書かなくてもいい。
 そのあと中華料理で会食。井上ひさしはホリプロから依頼されてい
る戯曲をまだ書き終えていないとかで、席なかばで立つ。それにして
も作品を全部落し、料理を食い、選評も書かず、おまけに選考料を貰
ったりしていいのかいな。
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