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偽文士日碌

十一月十二日(木):245-246

 表参道、年末の欅並木の電飾、今年からまた復活するということを
聞く。不景気なので盛りあげようとしているのだろうが、あれをやる
と夜はタクシーの猛烈な渋滞となり、わが家に入ってこられなくなる
のだ。困ったものである。
 午後二時、新潮新書編集長の後藤裕二、わが担当の阿部君、「yo
m yom」誌の担当・楠瀬君が来宅。後藤さんは「バカの壁」で養
老さんの聞き書きをやり、ベストセラーを出した人である。阿部君に
は「アホの壁」の続稿二十枚ほどを渡し、第四章「人はなぜアホな計
画を立てるか」と第五章「人はなぜアホな戦争をするのか」の参考資
料を受取る。楠瀬君には短篇「アニメ的リアリズム」を渡す。あまり
いい出来ではないことをことわり、これがわが最後の短篇となるであ
ろうことを通告する。実際、もう短篇は書けないと思う。どんなアイ
ディアを思いついても過去のいずれかの作品に似ているのだ。
 しばらく歓談。なんと新書担当の石井重役は、おれが断った「人間
の器量」という案を忘れられず、福田和也のところへ頼みに行ったら
しい。福田君はちょうど二週間ほどの暇ができたばかりとかでなんと
なんと、二週間で書きあげてしまい、もう年末には出版の予定だとい
う。なんという離れ業をするのか。あきれてものが言えない。  
 これが刺戟となって今夜は晩酌をせず、「アホの壁」を書き継ぐ。
大いにはかどる。
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