トップへ戻る

偽文士日碌

五月六日(木):303-304

 皮膚の痒みはすっかりなくなり、昨日の収録から戻っても痒みがぶ
り返すことはなかった。やれやれだ。
「聖痕」は、推敲するのがいやになってきて、また五十枚を保存する。
八ヶ月かかって百枚とは遅筆もいいところだ。
「赤い小人」を読み継ぐ。この本を読んだあたりから、いい小説は神
話でなければならないという考えに至ったのかもしれないなあと思う。
 今日は光子が金塊を持って田中貴金属へ売りに出かけた。ずいぶん
重かったようだ。心配して、大丸の担当者とその上役が二人で付き添
ってくれたと言う。「こんな古い金の延板をよく持っていましたね。
わたしは見るのは初めてです」と田中貴金属の人は驚いていたらしい。
結局、買った時の三倍の値段で売れたとやらで、光子はほくほく顔で
帰ってきた。田中貴金属の人は購入した時の証書を見て「えっ。筒井
康隆さんでしたか」と驚いていたという。「今夜はビーバップですね」
とも言ったらしい。ファンであったようで、どこにでもいるものだな
あと思う。
 これはそもそも、住宅ローンを早く返してしまって身軽になろうと
いうので売ったものである。金の値段の高騰がなければ、まだしばら
くローンを払い続けていなければならなかったところだ。こんなでか
い金塊を量る機械がないので、大阪まで持っていかねばならないとの
ことで、代金の支払いは明後日になるが、銀行振込なので、これを読
んだ人が強盗に来ても金は家にないので悪しからず。
ページ番号: 303 304

「次のページへ」や、「前のページへ」をクリックすると、ページがめくれます。