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偽文士日碌

六月十二日(土):315-316

 伸輔の個展もこれで十回目になるらしい。オープニング・パーティ
で三瀦氏が挨拶し、おれはスタッフの苦労に感謝した。いい画廊であ
る。最新の照明設備もすばらしい。山下洋輔からは胡蝶蘭が届いてい
る。上階にあがると会員制のクラブになっていて、ガラス越しに画廊
が見おろせるようになっている。
 伸輔の絵は明るくなった。自然のままの色彩だけではなく、さまざ
まな色を使いはじめたからであろう。今回は三瀦氏がずいぶん力を入
れてくれている。現代美術のトップの地位にある三瀦氏が、五十人に
一人という選り抜きのスタッフと共に後ろ楯になってくれている。伸
輔は幸せである。
 せっかく神楽坂の近くまで来ているのだから、夫婦で行く料理屋は
ないかと三瀦氏に訊ねると、葉歩花庭という店を教えてくれた。タク
シーで五分、瀟洒な店だが中はたちまち客でいっぱいになる。若い人
が多い。ハーブ会席というのが珍らしいのでそのコースを選び、初め
て飲む「夢の十三里」という芋焼酎を戴く。トマト寄せ湯葉ソースに
雲丹のジュレ、車海老のルッコラ巻、葡萄酢の寿司、蓮根餅に鱧、鰆
の西京焼には蓼の酢が添えてあり、蓴菜の茶碗蒸しなど、珍しいもの
ばかりであった。帰途、神楽坂をぶらつき、帰宅十一時。料理の出る
スピードが遅かったせいである。伸輔が帰ってくる筈だが、待ってい
られずに就寝。
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