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偽文士日碌

六月二十七日(日):327-328

 わが戯曲「スタア」を上演しているので、夫婦で六本木の俳優座劇
場へ行く。なんと大江健三郎が来ていた。「実にアホな芝居ですが」
と、恐るおそる招待したのだったが、まさか同じ日になるとは。「偶
然ですね」と言うと「偶然でもないのですが」と大江さん。わざと同
じ日を選んだのだろうか。
 芝居はよかった。三幕の芝居をひと幕にしてテンポアップしたのは
正解だったと思う。なにしろ三十五年前の話だから、設定の古さは否
めない。最初に昭和七十年代であるという断わり書きが幕に映写され
る。一時間五十五分で全部やったから、心配していた古さや時代感覚
のずれはさほど感じないですんだ。役者もみんなよくやっていた。ア
ッと驚かされた演技も二、三あったし、仕掛けの多い舞台装置だが、
その仕掛けでも一か所、三河屋が登場するくだりで驚かされた。
 大江さんが帰る時にもそう言ったのだったが、しかしまあ、われな
がらなんと虚無的な、実も蓋もない芝居であろうか。あきれ果てるば
かりである。それでも光子は面白かったと言い、見に来てよかったと
言う。帰途、北村総一朗に呼び止められ、「銀齢の果て」が芝居にな
らないものかと訊ねられる。「スタア」初演の時の主役だが、お互い
歳をとったものだ。
 今日は昼の部だったので四時に終る。いったん帰宅したのち光子と
MIYASHITAへ行き、夕食。
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