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偽文士日碌

八月二十三日(月):355-356

 四時半に迎えの車が来て、東京会館へ。今夜は谷崎賞の選考会であ
る。二階の一室にはすでに川上弘美と新選考委員の桐野夏生が来てい
て、おれのすぐうしろから池澤夏樹、最後に「始めてなのに遅れてす
みません」と新選考委員の堀江敏幸。新人お二人は「緊張してます」
と言いながらも、いざ選考が始まると堂堂と意見を述べる。桐野さん
は以前「東京島」で受賞のあと、おれが授賞式で選考経過を述べ、そ
の後彼女の「女神記」発刊の折に対談したりもしているので、意見は
安心して聞いていられた。推薦する作品も同じだった。
 昨年は受賞者が出なかったので心配していたのだが、今年は阿部和
重「ピストルズ」に決定したのでほっとする。他にも、二作受賞にし
てもいいのではないかと思える力作がもう一作あったのだが、これは
反対する人が多くて受賞に至らなかった。
 フランス料理の会食となる。丸谷才一、井上ひさしという座談の名
手が欠けただけに、最初はみな言葉が少なく、特に桐野さんは「緊張
して」などと言ってほとんど喋らない。おれと池澤氏が責任上、話題
提供の努力をする。それでもアルコールが入るとみな次第に元気にな
り、大笑いも交えて愉しく時を過す。選考で正反対の意見だったこと
など忘れて和気藹々となるのはいつもの通りであり、さすがはベテラ
ン作家ばかりである。
 帰宅九時半、就寝十一時。
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