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偽文士日碌

一月二十日(木):431-432

 三時十五分、池谷真吾が迎えに来てくれて、築地・朝日新聞本社内
の「アラスカ」へ。佐久間文子、大上朝美など文化グループの面面の
出迎え。丸谷才一はすでに来ていて久しぶりの挨拶。やがて大江健三
郎。彼は地下鉄で来たらしい。コーヒーを飲みながら鼎談開始。
 四時から始まった鼎談はそれからえんえん五時間にわたって続いた
のだった。この三人の鼎談は初めてだった。大江さんはよく喋った。
昨夜三時まで書いていたという原稿用紙二枚ほどにびっしりの準備の
メモを見ながらの、のっけに「あなたはよく喋るからほどほどに」と
奥様から言われていたことを告げながらの、ほとんど独演であり、落
語までやったのには驚いた。四時間ほどは彼が喋っていたのではない
か。おれが四十分、丸谷さんが二十分くらいか。素敵に面白かった。
七時ごろからは食事が出たが、そのままほとんど質を落すことなく鼎
談を続けたのだ。鼎談でこんなことは初めてである。
 コース料理では、三人ともステーキではなく、ここの名物と言われ
ているハンバーグを選んだが、こんなところにも全員の年齢があらわ
れている。昔なら一も二もなくステーキを選んだであろうメンバーな
のである。しかしみな元気なので安心した。食事の最初にシャンパン
が出て、その後お二人は白ワイン、おれがビールを飲んだのだが、最
後の方でお二人に少し酔いがまわったかな、と思える程度で終了。な
ごやかに別れを惜しみ、帰宅十時。ビール、焼酎を飲んで就寝二時。
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