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偽文士日碌

四月二十二日(金):457-458

 筒井家の菩提寺、別格本山三津寺の先住が亡くなった。タクシーで
その通夜に行く。御堂筋にあり、三津寺筋に面した三津寺には顔見知
りの学僧たち以外にも多くの僧侶が葬儀を手伝っている。おれたち夫
婦は本堂に導かれた上、親戚一同の席につかされ、恐縮する。境内に
いる多くの弔問者から見上げられるかたちになってしまうのだ。
 実は喪服を二着とも東京の家に置いてきてしまい、しかたなく濃紺
の背広で出席したのだが、さいわいにも通夜は六時から。次第に暮れ
なずんでいくので服は黒く見え、助かった。
 僧侶の葬儀に出席するのは初めてだが、いや驚いた。百人近い僧侶
が列席していて、いずれも真言宗のお坊さんだから、いっせいにお経
を朗誦するのである。当然のことながらみなお経など見ないで声を張
りあげる。真正面で見聞きし、いやはや実に凄いものであった。
 先住が住職だった頃には「若」と呼んでいた息子さんが現在のお住
さんであり、彼が挨拶をした。亡くなった先住は八十八歳。急性呼吸
器不全だったとのこと。以前、わが家の法事があった時、前夜の雨で
千日前のお墓が水浸しになり、おれたち夫婦はお住さんと共に水を掻
い出した。「ご苦労をかけますなあ」と言うお住さんに「いやいや、
これも修行ですから」と言うと、お住さんは大声で笑った。あの声が
忘れられない。
 式は七時に終了。そのまま帰宅。
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