偽文士日碌

ていて、ひとつひとつの部屋に露天の檜風呂、岩風呂、室内と風呂が
三つもついている。二夫婦が隣り合わせの部屋に入る。源泉掛け流し
の露天風呂に入っていると鴬がすぐ近くで鳴きつづけて、喧しいほど
だ。久しぶりで谷渡りを聞いた。
　別室で夕食。おれと光子は日本酒の三種飲み比べをいただく。和服
姿のいなせな社長兼料理長が出てきて酒の説明をしてくれる。光子は
すぐワインに変えたので、その分の日本酒もおれがいただく。新さん
は例の如くビール。料理は盛り沢山で、とても食べきれるものではな
かった。前菜が何十種類もあり、これを全部片づけたため、あとの料
理が食べられなくなってしまう。造りでは関あじが出た。この鯵には
旬というものがない。あと、鯛真丈、鮑の蕗味噌グラタン、甘鯛の東
寺蒸し、豊後牛と地鶏の炭火焼き、山菜のてんぷらなどが出る。実に
うまかったが、結局牛と鶏は全部食べきれず、筍めしはお握りにして
部屋まで持ってきてくれる。客は他に二組だけのようだ。全室が離れ
で六棟しかない。
　食後は四人、おれの部屋に集って、思い思いのものを飲み、風呂に
入り、マッサージ機にかかる。社長が、他では飲めず、これを飲むと
他の焼酎は飲めないという貴重品の「大黒」と、特製のキムチを持っ
てくる。焼酎が滅法旨かったので、新さんとおれで瓶の半分を空けて
しまう。テレビによれば颱風が奄美大島まで来ていて、明日は雨だと
言う。まあそういうこともあるだろう。以前長崎に行った時は颱風の
直撃の中をタクシーで突破したんだもんな。就寝十二時。