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偽文士日碌

十月十四日(金):501-502

 煙草を二円増税すると言っていたのが、葉たばこ農家に打撃をあた
えるというので自民党が横槍を入れ、どうやらやめるらしい。
 午後六時過ぎ、中公の関知良が迎えに来てくれて、光子と共にホテ
ル・ニューオータニの「ジャパン・シガー・アワード」に向う。おれ
はタキシード、光子は生れて初めての黒のロングドレスである。青羽
芳裕副会長が出迎えてくれる。案内されたのは「パラッツオ」という
宴会場で、光子は昨日も谷崎賞に来てくれた辻厚成会長夫妻と共に、
先に会場に入る。会長が挨拶している間待たされたのち、いよいよ出
番となり、スコットランド人のバグパイプ奏者を先頭に、元ミス・ユ
ニバースの女性二人に挟まれて会場に入る。男は全員タキシードにブ
ラック・タイの格調高いパーティなのである。会長から賞状と賞品の
葉巻を戴き、挨拶をする。
「この度はこのような晴れがましい賞をいただいて、恐縮しておりま
す。煙草は人間を情緒的にするすばらしい発見であり、発明です。近
年、喫煙者が迫害されておりますが、それもまさに喫煙しない人たち
の、非情緒的な精神によるものではないかと理解し、許すことにして
おります。紳士である喫煙者の皆様方も、おそらくご同様であろうと
思います。紫煙をくゆらせて、未来に、あるいは宇宙にと思いをめぐ
らせる愉悦というものは、何ものにも換え難いものがあります。しか
し、過去の多くの例を見ても、こうした喫煙文化の、非常に高度に発
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