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偽文士日碌

十月二十七日(月):813-814

 本日午後一時三十分、義弟岡本新、永眠。享年七十二歳。
 朝八時、喜美子さんから電話があり、しばらく光子と話していたの
だが、おれに新さんと話してくれというので受話器を耳に当てたもの
の、「新さん、新さん」と呼びかけても聞こえてくるのは新さんの息
遣いだけ。彼は酸素吸入を拒否していたらしい。あとで聞くとこの時
新さんは眼を見開いておれの声を聞いていたという。「頑張れ、新さ
ん」といって受話器を光子に戻したが、これがお別れとなった。
 三時前に角川の郡司珠子が迎えに来た。それと同時に電話で新さん
の訃報。電話の応対を光子に任せて東京会館の山田風太郎賞選考会に
赴く。今回は甚だ不調であり、奥泉光、林真理子から受賞作なしの提
案もあったが、それは避けようということで二時間の討議の末、荻原
浩「二千七百の夏と冬」に決定。推したのが真理子さんとおれだけだ
ったので、去年記者会見をした真理子さんは授賞式の選考経過報告に
まわり、おれが記者会見をした。いい作品がなかっただけに話しにく
いことだらけで往生し、皆が食事している部屋に戻るなり「酒をくだ
さい」と言って京極夏彦はじめ全員に笑われる。荻原君が来て会見場
に赴く。なかなか帰ってこないので記者たちから虐められているのか
と思ったら、質問されるたびに彼自身が長広舌を振るったとのこと。
水割り三杯。赤川次郎は今回で選考委員を退任、夢枕獏と交替だと言
う。おれの任期はあと五年。それまで生きていればいいが。
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