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偽文士日碌

二月二十三日(月):857-858

る「カーディナス銀座」というレストランへ行くと、なんとフルコー
スの用意がされていた。弘美ちゃんの隣の席でその向かいの彼女の息
子さんが美男子なので驚く。のっけから乾杯の音頭をやらされ、また
しても「いきなりか」と言いながら立つ。「今回の受賞作の『水声』
の主人公、都と陵の姉弟の関係が、現在のわたしと妻の関係によく似
ているので共感を抱きました。こういう小説わたしは書けないので、
ありがたい作品でした。前から彼女の作品を読むたびに川上弘美が母
親であればよかったのにと思うことがしばしばで今回は特に強く感じ
ました。前に本当の息子さんがおられますが」ここで皆が笑うので、
「もうこの歳になるとなんでも言えるし、書ける。怖いものがない。
そのうち書きたいことを書いて日本全体から嫌われ、世界中から嫌わ
れ、行く所がなくなってシリアへ行き、ISILの連中に拘束してく
れと頼んでも相手にされない、なんてことを考えます」と、さらに笑
わせ、「さて『水声』ですが、彗星の如く文壇に現れた弘美さんはた
ちまち賞を総なめにし、わたしと同じ文学賞の選考委員をやるように
なりました。次は皆を追いこして文化勲章を受賞するのです」サンキ
ューと言って腰をおろしてしまい、乾杯を忘れたのでやり直し。皆に
笑われる。田中光子と宮田毬栄が傍に掛けたのでいろいろと話す。辻
原登が来たので先日来「遊動亭円木」をいろいろあげつらったことを
詫びる。フルコース三皿めでもう食べられなくなり、タクシーを呼ん
でもらって帰宅。パーティと二次会で計八杯ほどウイスキーを飲んで
いながら、喉が乾いたと言ってビールを飲む。就寝十二時。
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