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偽文士日碌

六月二十二日(月):879-880

 長篇はやっと法廷場面を決定稿とし、二百三十枚になった。取調べ
と裁判の場面、おかしなところがないか、朝日新聞の大上朝美に見て
もらうために発送する。タイトルは「モナドの領域」とする。今のと
ころ、全部で三百三十枚と、短いめの長篇となるが、これは雑誌に掲
載するとすれば一挙掲載が望ましい作品だということがわかってきて
少し悩む。一挙掲載なんてして貰おうとすれば、雑誌の都合もあるだ
ろうし、どこに頼んでも、掲載がだいぶ先になってしまいそうだ。 
 まだ完成してもいないのに気が早いことだと自分でも思うのだが、
これがどうやら老化現象で気が短くなり、少しでも早く掲載してほし
いと思って夜も眠れない状態となる。困ったことである。と、いうの
も「ダンシング・ヴァニティ」の時のことが思い出されてならぬから
だ。あの時は書き始めて、第一回目を「新潮」に渡すなり同じ雑誌で
まだ発表されていない中原昌也の短篇と同じ趣向であることが判明、
がっくりきたものであったが、またそれと同じことが起きないか、ど
うも同時代性現象が悪く起ることのみ考え、こっちのテーマに似たタ
イトルの作品が広告に出ているといちいちどきっとして、甚だ心臓に
よろしくない。
 後半は手を入れ、手を入れ、書き直し、書き直し、いつ終ることや
らさっぱりわからぬ。書きながら、もうこれ以上の作品は一生書けま
いと思う。何しろ最終的なテーマなのだから。
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