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偽文士日碌

三月二十三日(水):943-944

 谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」と「文章読本」を一冊の文庫本にすると
いうので、新潮社の岑裕貴がその解説を書けと言ってきた。誰か他の
人がいるだろうにと言ったのだが、筒井さんしかいませんと言う。考
えてみればいつの間にか文壇でそんな老齢にいる自分に気がついて、
しかたなく承諾したが、これは恐ろしい話であり、先日来顫えながら
中公文庫の二冊を読み返している。
 昨夜は七時過ぎに伸輔一家がやってきて、夕食を共にする。五人分
の食事を作るのに光子がよく頑張る。恒至は顔が伸輔以上の大きさに
なり、背もほとんど変らなくなってきた。
 今日は三時半に安威君がリムジンで迎えに来てくれて、家族全員で
有馬温泉へ。久しぶりだが、伸輔たちは初めて。おなじみの「御幸荘
花結び」の人たち。顔馴染の仲居さん。伸輔たちとは別の部屋だが夕
食は同じおれたちの部屋。部屋についている露天風呂に浸る。伸輔た
ちは大浴場へ。夕食は例によっておれが大魔王、光子が神戸ワインの
赤、伸輔と智子はビール、恒至はジュース。料理は菜の花豆腐に車海
老とイクラ、初鰹、生烏賊、桜鯛など造りの盛り合わせ。次いで大き
な毛蟹が出てきたが、これは伸輔が食べられず、かわりに縞鰺の薄造
り。伊勢海老の鍋仕立て。八寸は焼貝柱、桜寿司、鯛の子のゼリー寄
せ。但馬牛のサーロインステーキ。その他。全員が入れ替わりながら
また露天風呂に入ってお開き。就寝十一時。
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