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偽文士日碌

六月二十四日(金):961-962

っと立ちあがったままなので感心する。見習わなくちゃな。蓮實さん
も「原稿でないと何を言い出すかわからないので」と笑わせ、挨拶を
読みあげる。最後の方ではおれにも一本の矢。「筒井康隆の書評では
旧帝国ホテルの『焦げたブラウン・ソースとバターの入りまじった匂
い』という表現を褒めてあったが、あれは実はフローベールからのパ
クリである」これには参ったが、古典に疎いことを諭されたのか、表
現選択のセンスを褒められたのか。最後、突然伯爵夫人の声で「どう
もありがとうございました」と言ったのには驚愕。蓮實さんがおとな
しかったのに比べて、山本周五郎賞の湊かなえが突然マスコミを非難
しはじめた。同じ候補だった「女又吉」のことでいやな目に遭わされ
たらしいが、同感しつつも、文壇とマスコミは夫婦関係に似ているな
と思う。川端康成賞の選評は辻原登で、受賞は山田詠美だったが、足
を四カ所骨折したとやらで杖をついていた。あとで「歩いても大丈夫
か」と心配したら「もう治ってます」とのこと。
 パーティ会場へ移動。例によってほとんど腰掛けたままだったが、
多くの人に逢う。蓮實さんがつれてきた九十二歳だという瀬川昌久と
昔のジャズの話を菊地成孔を交えて語り、その知識に驚く。川上未映
子が四歳の坊やを抱いてきて、また谷崎賞の礼を言われる。そのあと
ご亭主の阿部和重、中原昌也なども来て、蓮實さんを囲んで話してい
るうちに皆が写真を撮りはじめて撮影会の様相となる。矢作俊彦が来
たので蓮實さんに引き合わせると、蓮實さんは当然のように矢作を知
っていた。この頃には水割り六、七杯を飲んでいて、目の前に立って
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