誰かと話していた石田衣良、渡部直己たちにうしろから抱きついて驚
愕させる。そのうち「抱きつき爺さん」と言われるかもしれない。そ
の他昔からの多くの編集者と逢う。おれの知っている編集者同士が名
刺を交換しているのを見ると「おやおやこの人たち、知合いじゃなか
ったんだ」と思い、夢を見ているような変な気分になる。
そのあと蓮實さんの二次会がある銀座の「オリオンズ」へ移動。矢
野君の挨拶のあと、さっそく喋らされる。「昔『虚航船団』を書いた
時、蓮實さんが『二、三ページで投げ出した』と言っていたと聞き、
おやおやと思っていたのだが、その後なぜか対談の話があり、小説を
認めていないのになぜ、と思い、なかば報復的にお断りした。それ以
来、蓮實さんには嫌われていると思っていたのだが、今回『波』の新
編集長・楠瀬君からメールで『伯爵夫人』の書評をやれと言われ、蓮
實さんに明日逢うという矢野君に、蓮實氏には嫌われている筈なのだ
が、彼はおれが書評を書くことを了解しているのかと訊ねたところ、
大丈夫だというので、それならと、まずは読ませていただいた。好み
の話だし、映画のことが多かったので、突っ込みどころはここと決め
て、家には『キネマ旬報』が揃っているので当時の号を検索し、書か
れていない部分を補足したりなどして書きあげ、送稿した。そのあと
で『新潮』の三島賞選評の号が出ていることに気づいた。いつも東京
の家に送られてくるのだが、その時は神戸にいたのだ。まあいいやと
は思ったが、なんとなくいやな予感がして『新潮』を妻に買いに行か
せ、読んでみると、選評はたいしたことはなかったものの、なんと蓮
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