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偽文士日碌

五月十七日(木):1111-1112

 三時十五分に講談社の須田美音が迎えに来てくれて講談社へ。今日
は久しぶりの本館へ案内される。昭和初期の荘厳な応接室では、少し
早く来すぎたという蓮實重彦が待っていた。「大江健三郎全小説」の
刊行記念対談である。講談社の人たち十人ほどがわれわれの対談を見
守る形となる。即ち「群像」編集長の佐藤辰宣、蓮實さん担当の森川
晃輔、おれ担当の嶋田哲也、大江健三郎全小説担当の山口和人、文芸
第一出版部の部長松沢賢二と同じく部長の森山悦子、そしておれ担当
の須田美音。懐かしや文芸第一の部長になっている中島隆も来た。 
 対談は「セブンティーン」にからむ戦後民主主義の問題から、蓮實
氏もおれ同様に民主主義が嫌いだということ。蓮實さんの「ボヴァリ
ー夫人論」について。「万延元年のフットボール」は自虐的な反芻と
文学の不快さの強調、自罰的な主人公による常識的で日常的な読者へ
の挑発。この作品とその次の「洪水はわが魂に及び」ではユーモアを
含んだ制度への攻撃的な文章表現が最高の域に達していて、読みにく
さもまた最高であるということなど。
 六時過ぎに神楽坂へ移動。ルグドゥノム・ブション・リヨネという
フランス・リヨン料理の店へ案内される。蓮實さんは開店当時、ベル
ギー人の奥さんと一緒に一度来店されたとか。コース料理での話題は
ジェラール・ジュネットのこと、「資本主義との婚姻は破綻した」と
言うスラヴォイ・ジジェクのこと。嶋田君に送られて帰宅は十時。
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