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偽文士日碌

十月十日(木):1229-1230

 今日中に上京しておかないと、台風で世田谷文学館の小松左京展に
行けなくなる。豊田有恒とのトークがあるのだ。
 表現の不自由展が再開されたが、文化庁が補助金を不交付にしたり
河村市長が中止を要求して座り込むなどの大騒ぎである。そんなに騒
ぎ立てるほどのことではない。こんなものは政治的でもなければ論争
的でもない。展示物がこれでは、深い論争はできまい。対立する相手
は政治ではないだろう。こうした展示物が展示されているということ
は、表現は自由だということだ。展示出来なくなって初めて不自由展
になる。その意味で、展示が中止されていた間だけは自己完結的に不
自由展だったわけだ。
 展覧会であるからには、やはり見せる作品がメインになる。ならば
昔から展示することが出来なかった多くの美術作品がある。それは時
には猥褻であったり残虐であったり風刺であったりした。だが実はこ
うした受難は現代の新たな作品にも襲いかかっているのだが、公にさ
れていなかったり、一部で報道されたものだけにとどまっている。
 さらには文学作品などでは、そもそも発表される以前に作家が自粛
してしまうという現実がある。ここにさえ書けない文字、単語、諺、
表現、言い回し。その多さたるや眼を疑うばかり。これらを大書して
壁面を満たせば、いかに良識の皮を被った罵り声が芸術的思考を浸食
しているかわかろうというものである。
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