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偽文士日碌

一月三日(木):1167-1168

「新潮」二月号が面白い。蓮實重彦「「ポスト」をめぐって――「後
期印象派」から「ポスト・トゥルース」まで」が爆笑ものの傑作だ。
講演記録なのだが、のっけからプロジェクター投射への「その瞬間に
聴衆をふとわかったような気持ちにさせてしまう」邪悪な装置だとし
て拒否し、次いで「紙の資料の配布の方が、記憶に残るという点では
遥かに有効」だが、それを準備する余裕がなかったので「今日はわた
くし自身の声のみで勝負させていただく」という長い持って回った前
置きから始まって、タイトルの「ポスト」が官職などの「地位」にあ
たる「ポスト」ではなく、ある事態の「のち」という時間的な前後関
係に関するものであるというおことわりを述べ、なぜ「八十二歳にも
なるこの後期高齢者」がこの講演者に選ばれたのかというと「あの図
体が大柄な男なら、例外的な酷暑の季節であろうと、みだりに熱中症
で倒れてみせたりはしまい肉体的な強壮さだけは持ちあわせているは
ずだと」確信または盲信されたのであろうと主催者たちを揶揄し、「蓮
實重彦という存在が、国際的にもある程度の評価を受けている人間だ
ということを、ごく客観的にお話しておくことがよかろうと判断」し、
自分が「いかがわしい詐欺師のような者ではない」と告白するのであ
る。こうした愉快なフレーズがのっけから続出、いみじくも松浦寿輝
が言った通りウディ・アレンそこのけのスタンダップ・コメディアン
ぶりだ。正月からたっぷりと笑わせてもらった。
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