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偽文士日碌

三月十日(火):1259-1260

 伸輔が死んで二週間以上が経った。まだつらさが増しているさなか
である。作家だから、息子が死んだ時のつらさは何度も想像していた
が、これは想像以上のつらさである。胸にぽっかりと黒い穴があいた
ようなという形容があるが、まったくその通りだ。とにかく何処を探
しても伸輔はいない。光子には「伸輔をもうひとり妊娠してくれ」と
言っているのだが、無理なようである。さいわい光子も智子もしっか
りしてくれているので助かる。恒至は寂しそうにしているそうだ。
 筒井伸輔展は回顧展ではなくそのままの名称で、市ヶ谷のミズマア
ートギャラリーにて、予定通り四月八日から約一ヶ月間開催される。
見にきてやって戴きたい。小生もできるだけ会場に詰めて、ご来場の
皆さんにご挨拶申し上げたいと思っている。もし絵をお買い上げいた
だいたら土下座をするかもしれん。
「縁側の人」が掲載された「新潮」最新号が送られてきた。書いてい
るさなかのあれこれが思い出されて堪らぬ。
 古井由吉、別役実、逝去。古井由吉とは競馬場でも逢ったし、「文
学界」の座談会などでも話したし、別役実とは喜劇人協会で一緒だっ
たし、どちらともいい関係だった。どちらもわしより若い。順番を守
ってくれ順番を。寂しいよ。
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