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偽文士日碌

十月三十一日(土):1301-1302

せのあと、渡り蟹の露しぐれ、海老や鱧や松茸の入った土瓶蒸し、刺
身は車海老と太刀魚の焼き霜と縞鰺と鯛と生雲丹、伊予牛のしゃぶし
ゃぶ、カマスの小袖寿司、甘鯛の蒸しもの、揚げ物は鱚の俵揚げだっ
たが、このあたりでわれわれ老人夫婦は満腹になり、ご飯ものなどは
お握りにして部屋へ持ってきてもらう。
 翌三十一日は昨日の部屋での朝食のあと、また露天風呂に浸り、チ
ェックアウト。十一時、昨日のタクシーの迎えで愛媛県美術館へ。豪
華な応接室で館長の濱松一良と挨拶。館長や五味君の案内で真鍋博展
へ。館長ご自慢の館内を案内され、その設備や広さには驚いたが、え
んえんと歩かされたので疲れてしまった。窓からは彼方に松山城も見
える。こういう建築物は東京では無理であろう。展示は真鍋博の驚く
べき画業をまざまざと眼の当たりにし、この男常人に非ず、驚異的な
天才なりの思いを新たにする。応接室に戻り、真鍋夫人と長男の真鍋
真がやってきて久しぶりの対面でしばしの歓談。
 一時過ぎ、隣の松山市民会館へ歩いて移動。会館ではバレエの発表
会をやっていて、可愛い少女たちの姿を見ることができた。ここの楽
屋も設備の整った立派なものだ。二時、講演会が始まる。演壇に立つ
と広い客席は一人置きのソーシャル・デイスタンスが取られていて、
それでも二百五十人の客で満杯だ。長丁場が始まる。
 この講演に招かれた際、真鍋博と自分はあくまで画家と作家のつき
あいだけなので、彼のことをよく知らないからといったんお断りした
こと、それでも彼と同時代に生きた作家で生き残っているのはおれだ
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