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偽文士日碌


 まず表題についてご説明しておかなければなりませんね。
 文士のパロディをやってみようと思いはじめたのはいつ頃であった
か。勿論いわゆる文士という気骨のある人物は現代ではパロディでし
か存在し得ないから、まさにそれを演じてやろうというのが、一方で
は役者でもある、パロディの得意な作家としての発想なのだ。
 十年前まではさほど意図せずして流行作家のパロディを演じていた
ように思う。流行作家と言われるほど執筆量は多くなかったし売れっ
子でもなかったのだが、まあ一部では人気もあったので、薄い色のサ
ングラスをかけた軽薄そうな、これはまあ実際にも軽薄だったわけで
あるが、いかにも若手流行作家というスタイルで通してきた。ところ
が歳をとってきてそのスタイルはあきらかに不似合いとなってきた。
そこでサングラスをはずし、鼻下に髭をたくわえ、庄屋造りの家を建
て、家にいる時や近所を出歩く時は唐桟の着物の着流しという文士ス
タイルに変更したのである。
 ちょうど十年ほど前から、テレビ・ドラマや映画や芝居で文士とか
文化人とかいった役を演じることが多くなってきていた。久世光彦演
出のNHKドラマ「涙たたえて微笑せよ――明治の息子・島田清次郎」
で新潮社の創始者・佐藤義亮をやらされたのが最初である。これが好
評で次はやはり久世ドラマ「小石川の家」で斎藤茂吉をやらされた。
すべてチョイ役ではあったがあとはやたらに文豪づいてドラマで森鴎
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