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偽文士日碌

八月八日(金):37-38

人もいたのでは寝られる筈もあるまい。泥棒は手袋をつけていたらし
くて指紋は出ず、明日は改めて刑事が調べに来ると言う。
 光子は、伸輔一家がわが家に来たことをおれがブログに書いたため
に、逗子の家が留守であると泥棒に知られたのではないかと言う。ま
さか、そんな悪いやつがこの日記を読んでいる筈はないし、息子たち
の家の所在がわかるわけもない。だいたい伸輔は父親がおれであるこ
とを人に話したがらないし、だから幼稚園の父兄も伸輔が絵描きだと
いうことさえ知らないらしいのだ。それでも光子は、もう家族のこと
をブログに書くななどと無茶を言う。ではいったい何を書けばいいと
言うのだ馬鹿な。
 とにかく、留守中の泥棒でよかった。在宅中の強盗なら三人の命が
危なかったところだ。すぐにセコムと契約させろとおれは言ったが、
光子がそう言うと伸輔は拒否した。どうもそういう保守的なことを嫌
う性格なのだ。
 やれやれ、生きているといろいろなことに遭遇する。まあ誰も命に
別状がなかっただけでもよしとしなければなるまいね。恒司にしても
ちょっと得難い体験だったのではないだろうか。
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