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偽文士日碌

九月十八日(木):61-62

生徒のように、翻訳の名手でもある丸谷さんに評価して貰いたかった
からなのだった。
「わたしのグランパ」の方は、久世光彦に解説を依頼した。結果的に
は、これはこれで大正解であった。間もなく久世氏が急逝したからで
ある。おれより一歳年下だ。そんな早くに死ぬとは思っていなかった
ので驚いたが、彼に解説を書いて貰えたことはさいわいだった。それ
にしてもこの年、おれより若い友人が何人も死んだ。岡田真澄も一歳
下だったなあ。寂しいことだ。
 丸谷氏はすでに八十一歳。早く解説をお願いしなければと思ってい
たのだが、「悪魔の辞典」の文庫担当者の富岡氏が講談社労組の副委
員長になり、多忙になってしまった。あれから二年、つまり文庫化は
二年越しの懸案だったのである。今、丸谷さんは八十三歳。
 やっと企画が再開され、おれは何よりも丸谷氏へのお願いを優先し
てくれと頼んだ。富岡氏が丸谷氏に電話すると、あの大音声は健在で
あり「いたってお元気でした、快諾をいただきました」とのこと。お
れはほっとした。さっそく礼状を書き、そして今日、富岡氏には、丸
谷氏に渡す原著だの他の訳者の翻訳だの、その他何やらかやら参考資
料を山ほど託けた。出版は来年の一月か二月だから、ハードカバーが
欲しい人は、いずれ絶版になるので、その前に買っておかれたがよろ
しい。
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