偽文士日碌

　朝は大部屋で朝食。なんと三十人ほどいた。静かなのでそんなに泊
っているとは思わなかったのだ。朝飯は旨く、昨夜あんなに食べたの
に四人とも、ついほとんど全部食べてしまう。珍しいことだ。
　ロビーでコーヒーを飲み、昨日頼まれていた色紙を主人に渡し、仲
居さんたちと記念撮影。主人が気をきかせて、いちばん若いインテリ
の美人を世話係にしてくれたらしい。その美人と握手をし、九時、宿
を出発。
　１６８号線を少し引き返してから、３１１号線を今度は新宮に向か
う。小雨が、次第に本降りになり、周囲の山山の麓からは霧が立ちの
ぼって、仙境の如き趣きとなる。中上健次のことがしきりに思い出さ
れる。
　新宮から、北上しようか、南下しようかと、新さんはずいぶん迷っ
ていたらしいが、結局４２号線を南へ、海岸沿いに走る。紀州南端の
串本まで来て、橋杭岩の奇観を見るために車をおりる。この橋杭岩、
まるで橋の杭みたいに大小の岩が一列に並んでいるという不思議な光
景である。新さんが歯科医だからつい乱杭歯を連想してしまい、「よ
ほど歯性の悪い患者だ」などと冗談を飛ばす。
　ここから紀伊半島を北上。どこで昼食にしようかと、道路際を物色
しながら走るが、なかなか適当な店がない。とうとう白浜まで来てし
まい、白浜市街に入ってうろうろしていると、光子が「風車」という