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偽文士日碌

十月十二日(日):77-78

 科学の終焉と言われている時代だが、基礎科学や医学の分野にはま
だまだ新発見・新発明の可能性が拡がっている。無論、昔のような革
命的発明・発見は望むべくもないが。おれが知っていたのはクラゲか
ら光る蛋白質を抽出したことのみ。それも下村脩さんの名前を知らな
かったのだからなさけないことだ。
 番組の中でもMITに招かれてコンピューターの分野で多くの発明
をしている学者が取りあげられた。この分野だってパスカルが計算機
を発明した時から基本的には新しい発明はないと言われている。他の
ジャンルに比べたらコンピューターのテクノロジーだけは日進月歩の
ように見えるが、ひとつひとつは些細な発明なのであろう。しかしそ
の積み重なりがいずれはSF映画に出てくるようなバーチャル・リア
リティの世界に到達するのであろう。などということを話すが、こう
いう難しい発言はどうせカットされるに決っている。
 新番組なので慎重に採録したらしく、収録時間はずいぶん延びた。
九時半終了の予定が十時半になってしまった。美人の女性アナ三人を
含めた十人ほどがおれのハイヤーを見送ってくれる。おれのご贔屓は
あいかわらず相内優香ちゃんである。おれが番組の最後に「取りあげ
る人物がこれ以上小粒にならぬよう」と釘を刺したため、プロデュー
サーが「小粒にならぬよう努めます」と、窓に顔を寄せて車内のおれ
に言う。
 自宅帰着十一時。局の近いことが救いだ。
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