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偽文士日碌

四月二日(金):293-294

地に向かって逆コの字形にだいぶ大回りをしたことになるが、道を訊
ねた人の話だと、まっすぐに向かう一般道路はややこしくて、高速で
迂回した方が早くてわかりやすいということだった。「あんたらどう
せ、よそから来たんじゃろうが。そんなら一般道なんか通ったら迷う
ぞ。高速で行かんかい」と言ったのである。
 このあたりになるともう桜はない。山あいの広い田圃と同じ平面を
大きな川がゆったりと流れているというおだやかな風景である。院庄
で高速をおりて奥津温泉へ到着。ここの道の駅でまたしても野菜が安
い安いと言って姉妹は買いまくる。明日買えばいいのにと思うのだが
ほっておく。それにしてもつくしが一箱百円である。この附近で、採
れて採れてしかたがないのだと言う。そう言えば道端に生えているつ
くしをいくつも見かけた。
 奥津荘に到着。肌の綺麗なおかみが二室続いている離れに案内して
くれた。あちこちに棟方志功の絵がかかっている。隣村に住んでいた
志功がよくやってきて、宿泊代として絵を置いていったのだという。
ベランダに露天風呂があり、巨大な五百年の銀杏がある。温泉は他に
も四種類あり、最初は貸切り可能の泉の湯といういちばん熱い源泉に
浸る。ここには他にも立ったまま入る立湯だとか、津山藩主の森忠政
が自分専用にするため鍵をかけて一般の入湯を禁じたという鍵湯だと
か、川と同じ平面にあって、洪水の時は水に浸かってしまう川の湯な
どがある。昨日と一昨日の大雨で水嵩が増え、今はいつもよりぬるく
なっているというのだが、姉妹は浸ってきた。
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