きを早く読みたくてしかたがなかったということであり、自分にして
もこんな経験をしたのは何年ぶりかであり、これは稀有なことだと締
めくくる。あとで聞くと委員の誰かが「筒井さんは何でも言えていい
なあ」と言っていたらしいが、なんのことやらわからぬ。
パーティ会場へ移動。おれは選考委員御席と書かれたテーブルにつ
いて挨拶にくる編集者の誰それと話したが、十人ほど座れるテーブル
には桐野夏生が少し座っていただけで他の選考委員や作家はひとりも
来ないから、なぜだと新名君に訊ねると「みんな、筒井さんが怖いん
ですよ」と言う。わしゃ鬼か。純文学関係のパーティではこんなこと
は一度もなかったのだが、初めて先駆者の孤独と悲哀を味わう。
以前おれの担当者で今は貴志君担当の大嶋由美子から二次会の誘い
を受けていたのだが、パーティ終了後ホラー大賞の二次会にも貴志君
が出席するため一時間ほどの間があるというので、飲めない新名君に
は気の毒だが「エル」に誘い、ママの岩波恵子をハイヤーに同乗させ
て銀座六丁目の店まで行く。ここで預けてあったターキーのボトルを
女の子たちにも飲ませて空にする。またハイヤーで一丁目の何とかい
うビルの何階かの何とかいう二次会会場へ行くと、早速乾杯の音頭を
やらされる。その後さらに何か喋れと言われるが、もう喋ることもな
く、何だか下品なことを言って皆を笑わせたようだ。貴志君の横にず
っといたのだが、おれがいると編集者が寄りつかないらしいから京極
夏彦の横へ行く。宮部みゆきが挨拶に来た。十時半に抜け出してまた
新名君に、今日一日中乗り回した同じハイヤーで送ってもらう。
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