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偽文士日碌

十一月二十四日(水):409-410

 二時、朝日新聞出版の池谷真吾が今日は一人で「漂流」の再校ゲラ
を持って来宅。あいかわらず朝日の校正はこまかく丁寧だ。
 四時過ぎ、角川の新名君がハイヤーで迎えにきてくれ、みごとに色
づいた銀杏並木を見て東京会館へ。控室に行くと風太郎賞の選考委員
は全員揃っていたが、受賞者の貴志祐介はホラー小説大賞の選考委員
でもあり、風太郎賞に落ちた綾辻行人は横溝正史ミステリ大賞の選考
委員でもあり、今日はその三賞の授賞式だから控室はごった返してい
てややこしい。ミステリの方は大賞、優秀賞、テレビ東京賞があり、
ホラーは大賞、長編賞、短編賞があり、すべてに受賞者がいるものだ
から、これは授賞式が長引くぞと覚悟して会場に入り、いざ開会とな
るとみな新人とは思えぬ気のきいた挨拶をして、四十分ほどで案外早
く最後の風太郎賞の選考経過、つまりおれの出番となる。    
 すでに選評に書いたのと同じことは話せないから、選考委員それぞ
れの論評のユニークさを語り、候補作すべてに勢いがあったのを最近
の純文学はむしろ見習うべきであることなどを語り、受賞作「悪の教
典」については小説の反社会性や文学的不快さなどを論じてから、何
よりもこの作品には読ませる力があり、全員が読み続けないではいら
れなかったということであり、自分も後半を一気に読んでしまったが
この作品は上下巻に分れているから一冊を一気に読んだことになり、
他の委員は忙しくてそんな時間はなかっただろうが外出していても続
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