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偽文士日碌

三月十一日(金):449-450

 新神戸駅から光子と二人、新幹線に乗ったのが二時四十五分。新大
阪の手前で停ってしまい、この時はじめて大震災のことを知ったのだ
が、情報不足で精しいことがわからない。光子は新大阪で降りて帰ろ
うと言ったが、おれは東京の家が心配なのでどうあっても東京まで行
くと主張し、乗り続ける。京都に着くと光子がまた降りようと言う。
妹の喜美子さんの家が京都にあるからだろうが、これもはねつけて乗
り続けた。
 岐阜羽島でとうとう停止してしまい、ここで約五時間待たされる。
弁当もお茶も売り切れて水さえない。停車しているのが追越し路線な
ので、プラットホームにも出られないのである。ここでついに、ホー
ムに接している隣の車輌へ梯子をかけ、乗り移ることになり、大勢が
ぞろぞろ二号車へ向ったが、おれは頑張ることにする。だいたい腹も
減らず、喉も渇かないのである。その直後、静岡・東京間の点検が終
ったとやらで発車となる。前の席にいた人が二号車から戻ってきた。
あと五、六人で梯子に乗るという時になって発車が決ったのだそうで
ある。隣席にいた人は前の方に並んでいて、そのまま降りてしまった
らしいが、あんな駅で降りてどうするつもりなんだろう。前の席の人
も次の名古屋で降りてしまった。この人は喫煙ルームでおれと話をし
た紳士服関係の人で、おれと同時期に朝日新聞で不定期のコラムを書
いていたらしいが、ホテルはとれたのだろうか。
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