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偽文士日碌

三月十一日(金):451-452

 それからも列車はのろのろと進行し、光子は座席で携帯電話をかけ
るというルール違反をしながら、停電と混雑のためになかなか電話が
つながらなかった伸輔一家の無事をやっと確認し、喜美子さんと話し
て伸輔たちの無事を喜ぶあまり泣くなどの大騒ぎをする。
 東京の状態がわかってくるにつれ、自宅へたどりつく手段に悩む。
タクシーは長蛇の列だというので、インペリアルクラブの会員だから
何とかなるだろうと帝国ホテルへ電話をしたが、ほとんどの部屋が使
用できない状態だという。品川から先は列車がつっかえていて、東京
駅につくのは何時になるかわかりませんと女車掌に教えられたが、品
川などで降りたら尚さら収拾がつかぬ。ここまで来たのだからと頑張
ることにした。
 東京駅へ着く寸前、電光掲示板の乗換え案内に「表参道」の文字を
見て喜ぶ。大手町まで五分ほど歩けばわが家の近くまで行けるのだ。
 東京駅に着いたのはなんと十二時過ぎ。九時間半も乗っていたこと
になる。ためしにタクシー乗場へ行ってみると最後尾が見えないほど
の人なので、これはあきらめる。丸の内口にまわって地下鉄の駅まで
行くと、ここから乗って赤坂見附で乗り換えた方がいいと駅員が教え
てくれた。運賃は無料だった。空いていた列車が次第に混んでくる。
赤坂見附まで来て銀座線に乗ったが、渋谷が車輌で満杯とかでまたま
た待たされ、青山一丁目駅でも待たされ、表参道駅から十分ほど歩い
てわが家に辿りついたのは一時半。
 テレビで惨状を見て、飯を炊いて食べ、寝たのは四時半である。
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