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偽文士日碌

十一月三十日(金):601-602

いたらしく、足の痛みがすっかりなくなってしまった。
 仲居の話では、昔はよく司馬遼太郎など文豪が泊ったらしいのだが
「最近は物書きの先生がたはまったくお見えになりません」とのこと
である。
 夕食はわれわれだけの別室である。食前酒が山葡萄酒、料理はごく
少量ずつ珍味が出るというおれの好みだ。変ったところでは河豚の変
り揚げ、零余子の荏胡麻和え、鮟肝の旨煮、帆立のふわふわ真薯と炙
り河豚と松茸と柚子の入った吸物、特製焼寿司、飛騨牛サーロイン寿
司、赤蕪寿司、ふぐの一夜干し、河豚の身と白子の蕪蒸し、名物が飛
騨牛サーロインの味しゃぶ、飯は飛騨産こしひかり、デザートが黒蜜
ゼリーといつたところ。いずれも美味だったが、おれがいちばん旨い
と思ったのはこんな山中でありながらも鮑の蒸焼きであった。焼酎は
佐藤の黒、他はそれぞれビール、ワイン。
 途中、弟に頼まれて去年からやっているという洋装の社長が挨拶に
来室。東京では能楽とクラシックの企画制作をやっている会社の社長
だという。さらに板前の長が挨拶に来てしきりに料理の味について感
想を聞きたがるから往生した。
 部屋に戻ってからさらに温泉に浸かり、新さんと共にビールや日本
酒を飲むうち、足の痛みはすっかりなくなってしまった。喜美子さん
がおれのためにマッサージを頼んでいてくれて、男性マッサージがや
ってきて豪快に揉んでくれる。就寝は十一時。
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