トップへ戻る

偽文士日碌

四月十二日(金):647-648

 北朝鮮のミサイルがいつ落ちてくるかわからないから早く神戸に帰
ろうと光子は急かすのだが、こちらにはこちらで用事があり、まだ帰
るわけにはいかない。
 今日は出版芸術社の原田裕と池田真依子がやってきて、原田氏が以
前東都書房にいた頃の思い出話をしているうちに少し遅れて日下三蔵
もやってきた。絶版になった長篇ばかりを全六巻にして出そうという
話であって、実にありがたいことである。一巻に二作品が入り、主な
作品としては「48億の妄想」「霊長類南へ」「幻想の未来」「脱走
と追跡のサンバ」「おれの血は他人の血」「男たちのかいた絵」「フ
ェミニズム殺人事件」「新日本探偵社報告書控」「美藝公」「朝のガ
スパール」といったところ。これに加えて現在どこにも収録されてい
ない短篇やあとがきやエッセイなども適宜穴埋め的に収録するという
ことであり、これが出揃えばわが作品、紙に印刷されていないものは
ほとんどなくなるのだ。文庫本で絶版になったきり電子書籍でしか生
き延びる道はないという多くの作家に比べて、おれはなんと幸せな作
家であろうと思う。池田さんが、年齢は大きく違うものの、笑い顔ま
でがなんと恒至にそっくりなので驚く。
 帰り際、土産のチョコを三人に渡した光子がキチンへ戻ると原田氏
が小声で「奥様ですか」と訊ね、「ええ、九歳下ですが、かみさんで
す」と言うと池田さんが「ええー。娘さんかと思った」。
ページ番号: 647 648

「次のページへ」や、「前のページへ」をクリックすると、ページがめくれます。