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偽文士日碌

六月二十八日(日):195-196

 朝から露天風呂に入り、八時半、五階の大広間で朝食。魚などが出
たが、もはや全員、あまり食えない。
 また露天風呂に入る。昨日から都合六回も入ったことになる。個室
風呂なればこそだ。ロビーで珈琲を飲み、色紙を乞われて書いたあと、
若い女将やそのお嬢さんたちと玄関前で撮影。十時に出発。
 少し引き返して網野の琴引浜へ行く。この浜の鳴き砂は繊細な石英
の砂だから、踵で圧すようにして歩くときゅうきゅうと鳴く。ゴミが
混じると鳴かなくなるので、浜全体が禁煙になっている。これはおれ
だって大賛成である。喜美子さんは裸足になって歩いていた。
 昨日からそうだったのだが、こんなに都会から離れたところまで来
ると、みんなテレビに出ている人間が珍しいらしくて、やたらに声を
かけてくる。ここの駐車場を出ようとした時にも、四、五人の男がわ
ざわざ車を停めさせた上で「何も書く紙を持っていないのだが、名刺
か何かに何か書いて貰えませんか」と、あつかましいことを言ってき
たが、これは断った。こうした連中、だいたいが「見てます」と言う
ばかりで、「読んでます」と言うのはほとんどいない。
 百七十八号線を豊岡まで行き、四百二十六号線に入って城下町出石
に来た。ここの鸛屋というそば屋に入り、名物の皿そばを食べる。鸛
屋と書いて「つるや」と読ませているのだが、これはこの付近でコウ
ノトリのことを「つる」と呼んでいたためらしい。一人分五皿で四人
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