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偽文士日碌

九月十六日(月):693-694

 昨日にしなくてよかった。吹き荒れた台風も、今日は通り過ぎて快
晴。五時、夫婦で東京ステーションホテルへ行く。ここで一泊して明
日帰神しようという算段なのである。夫婦共にずいぶん疲労が溜った
ので、評判のいいこのホテルで旨い夕食を楽しみ、マッサージにかか
ろうというのである。新築のホテルは落ち着いた雰囲気だが、東京駅
のプラットホームと同じ長さの廊下がえんえんと続くことにまず驚か
される。部屋に落ち着いてから、南ドームまで歩き、復元されたレリ
ーフを見る。またえんえんと歩いて北ドームへ行き、二階にあるバー
「オーク」で食前酒を飲む。おれはシャンパン、光子は赤ワイン。こ
こは喫煙できる唯一のバーである。落ちついた大人のバーだ。
 地下一階「しち十二候」という日本料理へ行く。ここは打って変わ
って真っ白な装飾のやたらに明るい店だ。光子は辛口の日本酒、おれ
は芋焼酎。おまかせ会席を注文すると、次つぎに料理が出てきて、そ
れは即ち太刀魚焼霜ひし蟹、松茸土瓶蒸し、本鮪や鯛の刺身、自分で
海苔を巻いて食べる焼雲丹の手巻き寿司、隠岐牛の鉄板焼、しらさ海
老の釜炊き飯など。やはり老人には量が多すぎて会席は無理だ。
 九時半に女性二人がマッサージに来てくれた。おれを揉んでくれた
若い女性はなかなか魅力的だったのだが、おれは途中で眠ってしまっ
た。妻によれば猛烈な鼾であったとのこと。やれ恥ずかしいことだ。
帰りがけ、彼女は笑っていた。なんだか損をしたような気分である。
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