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偽文士日碌

二月六日(木):735-736

 テレビの予算委員会のやりとりを聞きながら「創作の極意と掟」用
の署名落款を続ける。なかなかはかどらない。上下逆に書いたり落款
を逆に押したりして、失敗も多い。書物に直接書くのならこんな失敗
は滅多にないのだが。
 三時、ホリプロ柳井がワーナー・ブラザースの人とVTR撮りのカ
メラマン同伴で来宅。二月公開のアニメ「ジョヴァンニの島」の宣伝
用のビデオ撮りである。名前と映画のタイトルを最初に言って三十秒
で喋れというのである。聞けば百五十人に喋らせるとのこと。わがコ
メントを紹介する。次のようなものである。
「筒井康隆です。ジョバンニの島は優れたアニメです。日本のさいは
ての、あまり誰も知らない歴史的な悲劇をここまで表現されたことに
敬意を表します。特に政治的という内容ではないものの、やはりでき
るだけ多くのロシアの人にも見てもらいたい作品です」
 きっかり三十秒、収録は一発で終了した。そのあと柳井のみ残り、
「笑っていいとも」やラジオ二局の出演依頼などについていろいろと
相談。結局すべて断ることにする。 
 とんでもない奴がいるものだ。日本のベートーベンと言われていた
聾の有名な作曲家が、作品のすべてを他人に書かせていた。もし筒井
康隆がその全作品を他人に書かせたものだったと判明すれば、ファン
の憤りたるやどれほどのものか。恐ろしや恐ろしや。
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